下北沢路地裏エアポート

Shimokitazawa Backstreet Airport

【ニュージーランド】Kiwiの冒険

Kiwiの冒険

僕はニュージーランドの鳥、キーウィ。羽はあるけど小さすぎて飛べない。けれど僕だって他の鳥のように自由に空を飛んでみたい。それは叶わない夢かと思ってたけれど、あるとき気づいた。同じように飛べないはずの人間が、道具を使って空を飛んでる。きっとあの乗り物の先頭に行けば同じように空を飛べる。僕は空を飛ぶための冒険に出ることに決めた。


今日のフライトは日本の東京行き。久しぶりのフライトだ。コックピットに入り丁寧に準備をしていると、小さな先客がいるのを見つけた。

キーウィだ。鳥なのに飛べない、愛くるしい姿で操縦席の前方に座って前を見据えていた。
「おやおや、君も飛びたいのかな?じゃあ一緒に空へ行こうか。」


たくさんの小さなメーターや画面が光を発している。
空を飛ぶこの乗り物の先頭で前を見据えていると、優しそうな人が話しかけてきた。袖にたくさん金色の線が入っている服を着ていて、他の人たちが彼の指示を熱心に聞いている。事情を説明しているみたい。どうやら僕も一緒に空を飛べそうだ。
しばらくすると、準備を整えた乗り物は加速を始めて地上を走り出した。大きな音がする。風を切る音だ。透明な窓から前をみていると、ものすごい速度で景色が後ろに流れていく。
こんな速度、今まで知らなかった。空を飛ぶと言うのはこう言う事なのか。

 

離陸を開始すると、飛行機は加速を始める。ある一定の速度を越えると翼に十分な揚力を蓄え空中に舞い上がる。
その瞬間視界は前方から上へ向かう。今まで見えていた地上が、斜め上からの角度で視界に広がっていく。それと同じ分量で広く近くなっていく青い空。
何度経験してもこの瞬間が一番好きだ。地上を離れ、空に浮く。英語では”air borne”と言う。「空にうまれる」とはなかなかな言い方だ。
ふと前方を見ると、今日初めて一緒に飛ぶことになった普段は飛べない”彼”も、目をまん丸にして空を見据えている。どんな気持ちかな?驚いているかな、喜んでくれているかな。
日本までは長い航路だ。ゆっくり空を楽しんでくれ。

 

ある瞬間から、視界に広がる世界がいつも見慣れた角度を外れていく。体が上向きに、傾いて登っていくのがわかる。
これが空を飛ぶってことか。
みるみる視界が広がり、この前水を飲んだ河や、エサをとりに行った丘が全部いっぺんに見えた。空からみると、僕の暮らしていた世界はこんなにも小さかったのか。
乗り物はどんどん前に進み、今まで僕の知らなかった場所へと向かっていく。しばらくすると海が見えてきた。一度見たことがある、広くて大きな水の塊。この海の向こうには、どんな世界があるのだろう。これから向かう先に胸の高まりを感じる。空を飛ぶと言うのは、こんな高揚することだったのか。


陸地を離れ海の上に出る頃には、オートパイロットを入れて飛行機を自動で日本の方向に向けた。GPSはまっすぐ羽田を指している。あと数時間後には横浜の夜景も見えてくるだろう。
今日は小さな相棒が一緒で、思いのほか退屈しなそうだ。空を飛んだ”彼”が、何を感じてくれたのか。これからどんなことを思うのかな。
地上に戻ったら、聞いてみよう。「また一緒に飛ぶかい?」ってね。

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ニュージーランド キーウィ

就職活動の産物

この「KIWIの冒険」は僕が大学生だった今から十年ちょっと前、あるクリエイティブエージェンシーの入社試験を受けた際出題された作文を記憶で再現したもの。

試験が始まり問題用紙をめくると、"キーウィ"、”GPS”、”横浜”の3つのワードを必ず入れ原稿用紙3枚以内で文章を作れ、という指示が書かれていた。
課題を見たときに「”キーウィ”は絶対みんな果物を取り上げるだろうから、あえて鳥の方の”キーウィ”にしよう」という、ひねくれた思いつきから生まれたものだった。
またキーウィと飛行機を操縦するパイロットの2つの視点で交互に進める構成にしたのも、限られた時間で話をまとめるのに役に立った。
試験回答は提出してしまったので正確ではないが、概ねこんな感じだったと思う。

今回ニュージーランドを訪れるにあたり、この文章のことを思い出し再び記憶を頼りに書き記してみた。再現して読んでみると、あの時抱えていた葛藤や思いが透けて見えるのも面白いが、
それ以上に当時はそもそもキーウィのサイズ感をよく知らないので完全に間違え、手のひら大くらいの小さな鳥のイメージでいたことがわかる。
実際のキーウィはサッカーボールくらいサイズがあり、そもそもコックピットの窓のに乗ったら前方の視界を遮ってしまうくらいデカイのでパイロットはかなり困るだろう。
知らなかったからかけた文章だ。また「GPS」と「横浜」の差込みの急激さも、思いつきで書いたことが窺えるが、急遽出た課題に対する瞬発力という観点であればまあこんなもんだろうとも思う。
ちなみにその試験は無事にパスしたが、他社の内定をもらっていたので次の面接試験に進む前に辞退した。
あのままその会社に進んでいたらと考えたことはあまりないが、こうして今でも思い出す事ができ、それがニュージーランドで実際キーウィと対面するとなったときに、あの時間が巡り巡って今に至ることを知る。

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オークランド動物園

オークランド郊外にある動物園に”彼”はいる。
ちなみに場所はこの辺り。ダウンタウンからバスで一本、時間にして30分あれば確実に着く。

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Kiwiの部屋

kiwiは夜行性なので、この扉の向こうの飼育用トンネルの中にいる。
暗闇なので目が慣れるまでは大変だけど、けっこう動いているキウィを対面することができた。ただ暗すぎて写真は撮れなかった。
日本人にはキーウィフルーツの方が馴染みがあるが、もともとはこの鳥のキーウィに似ているからというのが果物の名前になったという。
もふもふした姿と、鳥なのに飛べないという愛くるしさ。

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Kiwiの部屋

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Kiwiの部屋

ニュージーランド人は自らのことをkiwiと呼ぶ。
キーウィのつがいは仲が良く、卵を産んだ妻をおもいやり夫が卵を温めて孵化させる。そんな互いに思いやる姿勢がニュージーランド人の心に響くかららしい。
(諸説あるそうです)
いずれにせよ、この愛くるしい鳥とこの国により親しみを持つことができそうだ。